【記念講演会】
〔テーマ〕  自立した健康長寿への道
―介護保険法改正を前にして考える―
〔講 師〕  奈 倉 道 隆 氏 
(介護福祉士・京都大学病院老年科医師・東海大学名誉教授)

私は、今まで医療の現場で働いていましたが、医療の限界を感じ、その限界を打破するにはどうするか? それは、介護が持っているものとの願いを以って、80歳以後の人生を、介護の世界にと思っています。

=「その人の人生」を生きられるように支援するのが介護福祉である。=

今日の課題は、「介護保険改正を前にして」としていますが、介護保険制度は、出来た当初とは変わってきている。 近年の医学の進歩で、人々の人生は長くなったが人生の質はどうか?「健康長寿」は医学の課題で、「自立した健康長寿」は社会科学の課題である。介護福祉は「自律・自立」を目指す生活支援のことで、人生の質を高めるものである。

 人間の「生」は、心・身・環境の交互作用で保たれ、これが調和した時、健康となる。 例えば、心身の機能が衰えても社会環境を整備すれば、自律した生き方、即ち衰えても他人に支配されず、自分の意思で生きることができる。 社会環境とは建物・用具・食べ物・制度・友人・人間関係・雰囲気・介護者・ボランテアなど、その人を取り巻く周り総べてで,その人に合った社会環境をつくるという介護福祉の原理の上に、介護保険が作られた。が、今これが危機に面している。繰り返すことになるが「自律」は「自立」の基本で、他人に支配されないで自分の意思で生きることで、英語ではautonomy.である。「その人の人生」を生きられるように支援するのが介護福祉である。

現在の介護保険制度は、社会環境の充足を目標とするが、他者に依存しない自律的パーソナリテイ向上のための支援への配慮が不足している。 看護は傷病を持つ人の回復保護を優先する生活支援で、介護福祉との協働が大事である。 例えば車イスが必要になった人が活躍できる社会環境を作るなどはその例である。 

老化は傷病とは違い、過保護は老化を助長する

老化は傷病とは違い、保護すれば廃用症候群を生ずる。 タクシーやエスカレータの使用は、だんだん老化度を助長する。 初期の間なら生活の仕方やリハビリで対応すれば、機能回復ができる。 支援は必要だが、過保護は依存性を助長してしまう。 だからと言って見捨ては、勿論駄目であることはいうまでもないことである。 家族と一緒に生活している人は、家族が自律自立を望めば、老化に打ち勝つ生活を目指すようになる。*廃用症候群(学術用語)・・高齢などで体を動かさないでいると体や頭の働きは低下する乙とをいう。

非福祉的な高齢者集合住居では、自律的援助は手薄で、医療面が強調され高齢者が求めれば安楽な介護が提供されるので寝たきりになりやすい。 非福祉的支援や営利的支援に介護保険が利用されないように、又、在宅支援の総合的サービスの充実のため、一貫して介護保険制度の改善を図る福祉施策が必要である。*非福祉的な高齢者集合住宅・・最近急増している「介護付き有料老人ホーム」など。

近代医学は機械論的人間観に立つので、人間生活より疾病治療を優先する。 そこから延命治療などということがでる。

認知症についても、薬を使っての治療が優先されているが、薬によって躁状態を誘発したり、又、薬もだんだん効かなくなる。 薬を使わずに、目を見ながら繰返し対応すると、だんだん自律性が出来る。徘徊についても不安になるから徘徊するので、閉じ込めても無意味である。

脊椎損傷などで歩行困難になった人も、手術などの医療の考えだけでなく本人の自発的主体性が出る様に介護の考えで訓練すれば歩けるようになる。 要するに、その人の持っている力を引き出す点が医療と異なるところである。

=死は疾病ではなく、生活の終焉である。尊厳ある看取りとは=

高齢者が望んでいるのは「生きがいのある生活」と「尊厳ある看取りに至る長寿」である。 死は疾病ではなく、生活の終焉である。 救急の医療処置などをせず、自然な看取りが望ましい。 点滴などは、かえって苦痛を増すことになる。 自然な看取りが出来るように、家族や看護にあたる者への指導や訓練が必要である。昭和21年頃は、90%の人が在宅で、病院では10%の看取りであったものが、現在は逆転している。 以前のように医師の訪問診療が期待できない現状では、地域包括支援体制を作る方向が検討されている。

兎も角も、医療の体制が今後変わらなければならないし、また生き方が死の問題にもつながることを深く認識して、自立ある生き方をしなければならない。 デイサービスや、ショートステイは本来ならば、一人一人に見合ったサービスが必要であるが、現状は一律の介護支援をするので、利用者が家に帰った時に、介護する家人を困らせるような支援にならないようにしなければならない。 デイサービス、ショートステイが在宅生活を活性化するよう、自己実現を目標に各自が選択できるメニューを持つものでありたい。 それには介護士のみでなく、ボランテイアの支援も必要である。

=これからの介護保険に望むこと・今回の介護保険の改正点=

介護保険は、近年の急速な高齢化により、介護を必要とする人の増加に伴う介護ニーズの充足を目指して組み立てられた。 しかし、介護を担当している家族のニーズは考慮しない制度としたため、それまで介護の担い手であった家族が介護から手を引き、素朴な家族形態を壊してしまう結果に至った。

介護福祉の先進国である北欧などでは、施設介護では自律的生活に限界があることが判り、特養を廃止し、老人アパートに変更している。 そこでは個人が鍵を持ち個人のプライバシーが尊重されるが、その一方自立の責任が持たされるので、自分から申し出ない限り援助がない。 Independentである。
自分の人生は自分で決定する。自分が出来る事を発揮する為の支援が介護の目的であるとしている。

日本では、特養の建設を抑制しつつ、一方で民間のサービス付き高齢者住宅の建設を助成する施策を進めている。 政府は施設でなく、住宅と言っているが、要するに特養と同じ非福祉的住宅になっているので警戒しなくてはならない。 

〔介護保険法改正による今後の問題点〕

  1. 特養の入所は「介護度3」以上に限られ、病院の退院困難な入院患者の受け皿にされる可能性がある。 医療と介護福祉の連携は大切であるが、介護の原理が軽視される連携では連携の意味が違う。自立より保護が優先されるケアとなり、本人のために連携するのでない点が問題である。
  2. 要支援という軽度の介護が介護保険から外されている。 かつて介護保険は第二の健康保険と言われたが、今も健保で賄えない分をカバーする方向に進んでいるのではと懸念される。 

医療は、進歩し疾患の治癒改善には役立つが、生命力を引出し、いきいきと生きる力は与えてくれない。 それは自律的生活(Self Care)から生まれることを、誰もがしっかり認識してほしいと私は願っている。 その点からも男女共同参画は、男女ともに自立するという目標で、大変有意義である。 私も頑張って協力して行きたいと思っている。
以上が本日の講演の概要であります。会員の皆様からは、医療・看護・介護の各分野の特徴(本質)についてわかりやすくお話をしていただき、よくわかってよかったという感想が多く寄せられました。また、会員の身近で切実な問題でもあり、内容の濃い質問や意見が活発にでて、講師の先生から流石、大学女性協会だとの評をいただきました。 先生の穏やかで丁寧な話し方と内容から続編を聞きたいとの声が上がりました。