季節の便り アーカイブス
第1回
すべてのわざには時がある
Food for Thought
「すべてのわざには時がある」と旧約聖書の「伝道の書」第三章は語りかけます。
「生まるるに時があり、死ぬるに時があり」(2節)というように、対立する二項目を一つのペアとしてくくり、それを全部で十四対ならべています。
「植えるに時があり、植えたものを抜くに時があり」(2節)とか、「裂くに時があり、縫うにときがあり」(7節)などは、分かりやすいものです。
しかし中には、そこに書かれていることを本当に実行して良いのだろうか、といぶかしくなるようなものも含まれています。
たとえば「愛するに時があり、憎むに時があり」(8節)です。前半は良いのですが、後半になるとあたかも「憎まねばならないときは、憎め」と言っているかのようにも読めます。本当にそうなのでしょうか。この句をどう解釈すればよいのか、まだ私にはわかりません。
でもそれに似た「抱くに時あり、抱くことをやめるに時があり」(5節)については、いつだったかふと「あ、これは親から子供の成長を見ているときのことだ」と心にひらめいたことがありました。まだよく歩けない子供を大人は抱き上げますが、ある程度子供が大きくなると、なるべく抱かないほうが子供の成長を促すことがあるからです。
「黙るに時があり、語るに時があり」(8節)と言われると、これは政治的状況の中でも応用できそうです。作者にはもしかしてそうした体験もあったのだろうか、などと想像したくなります。作者が何を考えていたかは正確なところはなかなかわかりませんが、現代に生きる自分が自分なりに読んでみて、それがそれなりに意味を持つように思われるのは嬉しいことです。古典を読む喜びのひとつでしょう。
「伝道の書」は近ごろは「コヘレトの言葉」という題でも知られるようになりました。紀元前2世紀ごろのユダヤ人によってまとめられた格言集です。
大学女性協会 会長 加納孝代
2020年8月1日