季節の便り アーカイブス

第10回

アフガニスタンに思いを馳せて

カブールのバーブルガーデンにて撮影(上写真も含む)中道貞子

 

 2021年8月15日、タリバーンがカブールに侵攻。8月末にはアメリカ軍が完全撤収するというので、8月末のアフガンは混乱を極め、多くの人々が国を逃れようと必死でした。そんな中、自衛隊機で脱出した日本人は安井浩美さん一人だけ。9月1日、多くの新聞の一面には「アフガンを見捨てないで」という彼女の言葉が掲載されていました。その後しばらくはアフガン関連のニュースを見ない日はありませんでしたが、やがてアフガニスタンの文字がニュースから消え、2年近くが経った今、人々の関心はウクライナ侵攻へ。その間にも、世界のあちらこちらで起きる紛争、トルコ大地震や度々起こる災害などいろいろな出来事がメディアで取り上げられては消えていきます。

 しかし、私の脳裏にはいつもアフガンのことがあります。それは、2002年夏からアフガンの女性教育者支援に関わることになり、同年8月に事前調査団の一員としてカブールを訪問して以来、たくさんの市井の人々に関わり続けてきたためです。アフガンからの初めての国費留学生として奈良女子大学で学んだDさんは、帰国後は大学で教鞭をとり活躍していました。カブール訪問時にはいつも、かいがいしく私の世話をしてくれました。年に一度、会う度に成長していく6人の子供たちは私の孫のような存在になりました。今はその子供たちも結婚をして娘や息子がいます。サンテグジュペリの『星の王子さま』にでてくる「星があんなに美しいのも、目に見えない花が一つあるからなんだよ」という言葉のように、私にとってのアフガニスタンは私の大切な人々が住む特別な国なのです。

 2005年にはバーミヤンの小さな村の9年制の学校にご縁ができ、毎年訪問する中で少しずつ、教師や生徒たちとの交流を深めてきました。初めて会った時に6年生だったB君は、やがて母校で教鞭をとるようになりました。2009年にはこの村で初めての9年(日本の中学3年)卒の女子生徒が誕生しました。『星の王子さま』の中で、王子さまの星でたった一つしかない花が、地球上にはたくさんあるバラの花だと知って、がっかりする王子さまに、キツネは言います。「あんたが、あんたのバラの花をとても大切に思っているのはね、そのバラの花のために、暇つぶししたからだよ」。私にとって、この学校は今も特別な存在です。

文房具を手にする子供たち(2022年10月)

 初めてのアフガン訪問から20年が過ぎました。シルクロードの十字路に位置するがゆえに翻弄され続けてきたアフガニスタン。2017年を最後に訪問できずにいますが、時々、「文房具を配りたいんだけれど・・」などの一文と共に学校のようすを知らせるメールが届きます。タリバーン政権下で、女の子は6年生までしか通学できていませんが、それでも、笑顔の子どもたちの写真を見ると私も嬉しくなって、財布のひもが緩みます。

私の思いはいつもアフガニスタンに馳せていますが、それぞれの人にはその人にとっての「大切な場所」があり、「大切な人々」がいると思います。みんなが安心して生きていけるそんな世界に近づけることを願ってやみません。

大学女性協会 副会長 中道貞子
2023年7月15日