季節の便り アーカイブス

第2回

天満敦子さんのコンサート

 12月 2 日に東京代々木のハクジュホールで、大学女性協会主催の天満敦子さんのヴァイオリンコンサートが開かれました。コロナ禍の中、使用座席数を半分の百五十に絞り、検温や消毒にも厳重に留意しての演奏会でした。
 前半はバッハ、シューマン、フォーレ、ホルムベスク(あの「望郷のバラード」!)など小品を十曲ほど。トークを挟んでの後半は日本のメロディ。子守歌をいくつかと山田耕筰の作品、アンコールは「月の砂漠」でした。天満さんの弦の強い響きはもちろん、細い一本の糸の音色もホールの隅ずみまで届きました。天満さんは「直接に聴いてくださる人の前で演奏したかったので今日はとっても嬉しいです」と、満面の笑顔でした。私たちの多くの者にと ってもほとんど半年以上ぶりの生の音楽会でしたから感激はひとしおでした。
 今回のコロナ禍は色々のものを襲いましたが、芸術も大きな打撃を受けました。美術館が一斉休館、音楽会も軒並み中止。「不要不急」の文字はまるで芸術を指しているかのようでした。芸術家や芸術愛好家にとっては辛い時期でした。
 それにしても芸術とは一体何か、大災害が起こるたびに繰り返し出てくる問いです。自然災害であれ戦禍であれ、人間の生存や存続が危機にさらされるところでは二の次、三の次に追いやられてしまいます。でも必ず戻ってくるもの、それが芸術です。何故なのでしょうか。それは「人間とはなにか。人間を人間らしくしているものはなにか」を追求する営みだからではないでしょうか。
 天満さんのヴァイオリン演奏を聴きながら、前半はバッハやシューマン、さらにはほとんど知らないホルムベスクという人について、「あなたはこの曲を書いたときどういう事を考えておられましたか」と、心の中で対話していました。後半の日本の曲では、からたちの花のそばで泣いた男の子に「何があったの?」と、また駱駝に乗って砂丘を越えてゆく王子様とお姫様にむかっては「あなた方は追われているの? 大丈夫?」と訊ねていました。
 人間とはなにか、人間を人間らしくしているものはなにか、という問いを、コロナ禍のもとでも大事にしたいと思います。そのためには私たちの心を外に、また時空を超えて広く遠く向けてゆきたい。その翼となってくれるものが芸術ではないだろうか、そのようなことを考えました。

大学女性協会 会長 加納孝代
2020年12月15日


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