季節の便り アーカイブス
第4回
憲法記念日に寄せて
5月3日は憲法記念日。1947年、主権在民の新しい憲法が施行されました。鯉のぼりが、空高く、自由はいいね、と歌っています。
日本国憲法9条が平和の象徴であることは世界中に知られています。9条のおかげで75年間、日本中どの家庭でも夫や兄弟を戦地に送り出さずにすみました。戦争で他の国の人を殺すこともありませんでした。くわえて9条は、紛争下の国で支援にあたる人々の命を守ってきました。
「日本から来たというだけで仕事がうまくいった。9条に守られて、活動が続けられた」と、アフガニスタンで井戸掘りに献身した故中村哲医師が述懐しています。彼の死を招いた背景を慮るに、「集団的自衛権の行使容認」(2014年7月)や、「安全保障関連法案」(2015年5月)など関係ないと、誰に言い切れるでしょうか。
憲法9条と並べて素晴らしいと思うのは「すべての国民は法の下に平等である」という14条。ベアテ・シロタ・ゴードンさんの草案によるものです。
ベアテさん(1923-2012)はウィーンに生まれ、5歳から15歳までの10年間、ユダヤ系ピアニストの父レオ・シロタ(東京藝大教師)と母オーギュスティーヌとともに東京に暮らしましたが、アメリカの大学に進学して間もなく太平洋戦争となり、両親と連絡さえとれなくなります。しかし、奇しくも1945年12月GHQの民政局に採用され、日本の憲法の草案をつくる「極秘の任務」に就きました。
そして人権委員会の所属となり、先進国の憲法を参考にしながら、女性と子どものために数々の人権条項を書き込んでいきます。妊産婦や母親が保護される権利、非嫡出子の権利、子どもの教育の平等の権利にいたるまで、弱者へのまなざしに感動します。「私は日本女性にさいこうの幸せを贈りたかった」と自伝に記しています。(『1945年のクリスマス』柏書房、1995)
残念ながら、彼女が書いた女性の権利の条文はつぎつぎカットされ、最後に残ったのは14条の「すべての国民は法の下に平等である」という部分、および24条の「結婚は両性の合意のみに基づいて成立する」という部分だけになりました。それでもベアテさんからの贈り物の大きさは計り知れません。
この14条があることで、不当な差別は憲法に違反していると言えますし、堂々と裁判に訴えることができる根拠になります。つい最近の例では、国が同性婚を認めないのは違憲であると裁判を起こした原告に対し、札幌地方裁判所の女性判事が、14条の「法の下の平等」に照らして国に違憲判決を下しました。
ベアテさん、ありがとう。あなたの思いが生かされるようウォッチし、行動していきたいと思います。
大学女性協会 前会長 鷲見八重子